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夢で、死んだ父に会った。すっかり忘れているはずの彼の声のぬくもりも、抱きしめたときのやわらかさも、ほおずりしたときの髭のチクチクさえも、そこでは確かに感じ取れて、まるで夢じゃないようだった。父さんのこと、どうして忘れてしまうんだろう、この夢が覚めた時にはきっとまたわたしは、なにもかも忘れてしまう、と父さんに言うと、目が覚めてしまった。生まれて初めて泣きながら目が覚めた。

(ことあるごとに父のインキくさい話題を書いてごめんなさい。だけどもわたしが書くことをやめない一番の理由がこれだったりするのだから、どうしようもないしどうするつもりもない)

あたたかな皮膚、その裏に鼓動、それに合わせて膨らむ筋肉、奥では太くて強い骨、がちゃんとある。だってその感触がわかるから。父の声だって鼓膜でぢりぢり響いて沁みてるのを感じる、のに、何を言っていたのか肝心な部分を忘れてしまった。父の身体を、声を、記憶を、もう二度と離さないつもりで、離れないつもりでつよく、つよく、抱きしめていたのに、目を覚ました瞬間からどんどんどんどん消えてゆく。

どうして忘れてしまうんだろうね、ほんとに。